「人は見かけが9割」などという言葉が巷には溢れている。
本当に9割なのかどうかは別として、「3Vの法則」や「メラビアンの法則」
(両方とも同じものだが)で、視覚情報がコミュニケーションにおいて
「人に高い影響を与える」ということは知られている。
対人関係やビジネスでも頻繁に用いられる話だが、これは観光にもあて
はまる。
観光業当事者にその話をすると、ほぼ全ての人から「そんなことは当然」と
いった言葉が返ってくるが、実際に観光現場を見てみると、目に見える
ものに気を配って、手を入れている観光地や施設はそれほど多くはない。
次の写真を見ていただきたい。

大きな梅林の木に名札がかけられている。
大きくて、真っ白で、無機質なプラスティックの名札。
ここは日本でも名の通った梅園だ。さすがだ。おそらく
園内を散策するお客様のニーズにピッタリと寄り添った
名札なのだろう。
とても見栄えが良く、
少々離れていてもその札を読むことができる。
それはそれは大きな名札。なんてすばらしい名札だろう。
花の名前が分かるように花の何十倍も目立っている。
おそらく、この園の気配りの賜物なのだろう。
この梅林を訪れる多くのお客様は「無機質」で「人工的な
匂い」に満ち溢れた、それはそれは大きなプラスチックの
名札を愛でつつ、やがて訪れる、まだ遠い春を味わっている
ことだろう。
梅花の香りと景色の調和を心地よく愛でながら、自然の季節
感というものを楽しみに来園したお客様というのは、ごく僅
かなのだろうか。
そんな、ごく少数のお客様は、デカデカと目立つ場所にぶら
下がって、花の何百倍も目立っているプラスチックの名札を
見て、自然とはどう考えても釣り合わない珍妙な風景をどう
思っているのだろう。せっかくの梅見が興醒め・・・と感じては
いないだろうか。
良識のある日本人は不満を余り口にしない。だからといって、
何も言わないから「これでいいのだ」とはならない。
何も言わない「不満」を汲み取り、心地の良いものを供すのが
日本人の美学ではないのかと思う。
(実際には、お客様の不満を汲み取った商売が勝って、汲み取
れなかった商売が消える。ただ淘汰されていくというだけの
話であって、美学というわけではない)
今回取り上げた梅園の木の名札。「現場の意識の問題」で片付け
てしまうと、この問題を解決しないだろう。「現場の意識」という
抽象的な表現で課題を作ってしまうと、導かれる答えは往々にして
抽象的なものとなり、具体的な解決の糸口から遠ざかってしまうからだ。
下の写真をご覧いただきたい。

これは小さな梅園の梅木。輪切りにした木片を名札にしてぶら下
げている。取付ける紐の色も木片の大きさも、あえて目立たない
ものを選んで。(写真では明るく見えるが、実際は落ち着いた色味
になっている)
名札が据えられた木にも、周囲の風景にも名札は違和感なく馴染ん
でいて、訪れたお客様は梅の花を愛で、楽しみ、そしてさり気なく
枝に掛けられている名札に目をやる。
けっして名札が梅の花よりも目だったりはしない。主役の座を奪おう
ともしていない。
このような気配りをしている場所は梅園に限らず最近増えている。
花の鑑賞を楽しみ訪れたお客様の立場になれば、当然のことだ。
しかし、たったこれだけのことができない、気付かないところが多い。
今回のテーマは「観光客は見た目をとても重視している。見た目が
観光客に大きな影響を与える 」 ということ。
『 見た目 』と書くと、なにやら大がかりな話になりそうだと構える
人がいるかもしれないが、観光で訪れたお客様の心を満たすというこ
とに、なにも全ての観光地が《 大がかりな見た目 》を用意する必要は
ない。
ちょっとした気遣い、わずかな手間で、お客様の心に観光地の思いを
伝えることができる。今回紹介した有名梅園などは、素晴らしいプラ
スチック製の名札をどうにかすればよいだけ。
それができていないということは、気遣いと手間の両方を放棄してい
るということだろうか。もしそうならば、そのような施設や商品が
この先どのようになるかは想像に難くない。
例に出したこの梅園。関係者にすれば、有名観光地なのだからお客様
が減るとは思っていないだろう。しかし、口コミで来園者が増えると
は思えない。口コミで来園者が増えないということは、裏を返すと
どうなるのだろう。そのあたりの想像力は養っていて損はないと思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーースタッフ : I
.